新フィールドノート
−その46−



雑草駆除
名古屋大学情報文化学部 広木詔三


 私たちの情報文化学部の圃場を管理し、さまざまな研究・教育上の支援を長いことしてくれた技官の清水さんが若くして亡くなってしまった。その後、定員補充がなく、圃場は荒れ放題となり、雑草がはびこるようになった。見るに見かねて、雑草を排除しようと考えた。  まず、キク科のグループに目をつけた。タンポポは残そう。ヒメジョオンや、ハルジョオンのたぐいは、成長すると、丈が高くなり、目立つ。したがって排除の対象だ。さらにたちの悪いのは、オオアレチノギクやヒメムカシヨモギだ。これらは、芽生えのころは可愛らしいが、花をつける頃になると1メートルを越す草丈となる。その他にも、これらに似たようなキク科の帰化植物があるが、それも引き抜く。
 これらのキク科の植物は、わりと簡単に引き抜くことができる。ときには、大きくなって、なかなか引き抜けないものもある。とくに引き抜いた数を数えたわけではないが、かなりの数の個体を引き抜いた。初夏の頃に引き抜き始めたのだが、6月になると、それまで小さかった芽生えがグンと大きくなっている。再び、まず、ヒメジョオンやハルジョオンを引き抜く。なぜならば、これらはすぐに花をつけるからだ。花が終わると間もなく種子をつけて、うっかりすると、せっかく引き抜いた数よりも多く、種子がばらまかれてしまう。次に、オオアレチノギクやヒメムカシヨモギを引き抜く。ところが、これらの個体を引き抜いたあたり一面に、それらの芽生えがびっしり生えているではないか。これらがまたすぐに大きくなるかと思うとゾーッとした。本来なら、大きくなって花を咲かせて種子をつける個体は一部のものに限られるはずなのに、大きい個体を間引いて、結局は、すべての芽生えを大きく育てる役割を果たしていることになる。
 やがて、圃場が一段落した頃、私は、圃場に面している情報文化学部の建物周辺に、同じようなキク科の雑草がはびこっているのに気づいた。せっかく、今年、圃場の雑草を排除したとしても、来年は、圃場の周辺から、大量の種子が押し寄せて来るに違いない。あの冠毛をつけたキク科の種子は、風で散布されるのだから。キク科というグループは、現在、繁栄している被子植物の中でも、高度に進化して一番繁栄しているグループである。
そこで、情報文化学部の建物周辺のキク科の雑草も排除することに決心した。しかし、そうなると時間との勝負である。夏の暑いさなかには、さすがに暑くて辛い。とても全部は排除しきれなかった。
 9月も終わり頃になれば、日差しもやや弱まり、また、雑草排除を始めた。くせになり、行き帰りの雑草が気になり、気づくと、法学部周辺の雑草もむきになって引き抜き始めていた。そのうち、名古屋大学全体の雑草を排除しないと気がすまなくなりそうだ。
 今年は、非常勤の加藤さんが臨時雇いで、週2日、圃場の手入れをしている。だから、今年、私が雑草を引き抜いている面積は比較的わずかだ。だから、そのせいでキク科の雑草の排除が楽なのかどうかまではよく分からない。やはり、数を数えてデータを取っておくべきだったと悔やんでいる。
 風邪で辛かった2週間の後、気力が回復すると、ふたたび雑草を引き抜き始めた。だがしかし、こんなことをしていて良いのだろうか。ふたたび戦争への道につながる法案が国会を通過しようとしているのに。
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