新フィールドノート
−その47−
雑草排除奮闘記その2
名古屋大学情報文化学部 広木詔三
前回のフィールド・ノートで、雑草の駆除に関するものを全部書いてしまおうかなと思った。しかし、まてよ、このクソ忙しい時期だ、何回かにわけて小出しにしよう、と思ったわけだ。全部書かずに、一部だけ書くことのもどかしさ。このときばかりは、次回が早くこないかとまどろしく思ったものだ。ところがどうして、ひと月たつと、もう締め切りが迫っているではないか。
前回は、おもにキク科を中心に書いた。今回は、ツル植物に焦点を当てよう。キャンパス内に見られるツル植物にもいろいろある。ジャコウアゲハの幼虫が好むウマノスズクサもツル植物だ。このウマノスズクサは無闇やたらに繁殖しない。それに対して、ヤブガラシとヘクソカズラときたら、手におえない。ヤブガラシはその名のとおり薮を枯らすというだけあって、ほおっておくと、一面に覆いかぶさる。ヤブガラシをひっこ抜くのはきわめて容易なことだ。問題は、そのひっこ抜いたあとだ。1本のヤブガラシをひっこ抜くと、地下を這っていたその根茎から、5つも6つもの地上茎が現れてくる。今度は、これらの5つや6つもの地上茎を抜き取っても、まだまだ地上茎はあとからあとから現れてくる。10や20の地上茎から5、60の地上茎が生まれるわけだ。まさか、ヤブガラシは、私がヤブガラシを絶滅しようというのを嗅ぎとって、一本の茎を取り除いたあとに、何倍もの地上茎を生やせば、私がびっくりして、根負けして、降参するものと考えたわけではないであろう。しかし、ときには私も根負けしそうになる。
草むらのヤブガラシはおおよそ駆逐した。とは言っても、うっかりすると、ちびたヤブガラシの地上茎を見逃すと、2、3ケ月で立派な太さの地上茎となり、私をあざけるかのようである。「星の王子様」に出てくるバオバブを王子様が芽のうちに摘む、というくだりがあるが、それはある意味真実だ。私は、ヤブガラシの茎をむしり取りながら考える。私の授業で、おしゃべりが始まる。それをそのままほっておくと、ハチの巣をつついたようになる。私は、おしゃべりが始まると、すぐさま注意を喚起する。真面目に聞いている学生は、話が中断するのをいやがるが、あとでこの授業は静かでよかった、という声を聞くことが多い。
さて、ヤブガラシの次はヘクソカズラだ。このツル植物は、東山丘陵の林床に生える数少ないツル植物の一つである。ヘクソカズラはくさみを帯びた臭いがあるのが特色だ。ヘクソカズラは、地下茎は這わない。そのかわり、地上茎のところどころに根を下ろす。地上茎が伸びると、それは地面を這い、そのところどころに根が張っている。カイヅカイブキの下あたりからツタが伸びてくるのでやっかいだ。いくらヘクソカズラのツルを引き抜いても、また、いつしか、カイヅカイブキから別のツルが這い出してくる。そう言えば、根絶したかに見えたヤブガラシのツルがカイヅカイブキの上の方から顔を出している。カイヅカイブキの内側は相当暗い。ヤブガラシは地下茎に蓄えた養分を用いて、数メートルもの高さまで茎を伸ばし、カイヅカイブキを突き抜けると、すぐさま光合成を行い、稼いだ養分を地下茎にもどすのだ。だから、いくら茎を引き抜いても、あとからあとから地上茎が生えてくる。
このようなツルの特性に関心しながら、今日もまたツルの引き抜きにはげむのである。
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