新フィールドノート
−その54−
私が見聞きした「私が見た世界の森林事情」
名古屋大学情報文化学部 広木詔三
前号の「かけはし」に、次のような講演の案内が載った。生命農学研究科の北川教授が、世界の森林について講演するというのである。私は、まだ日本から一度も出たことがないので、このような世界の森林に関する情報を得る機会を逃す手はない。そして、ネタ切れぎみの私は、よりによって、北川先生の講演をネタにしようというのである。
ところで、最近は、いろいろな人がそれぞれユニークな読み物を連載しており、この「かけはし」もなかなか文化的な色彩が濃くなっている。しかし、このような多彩さは、私にとっては、ますます「まんねり」が許されないことになり、それなりにたいへんなのである。中條さんの「私の百名山」はたいへん人気があり、私のフィールド・ノートのお株が奪われた気がしないでもない。以前の私の記事を知らない人が私の最近のものを読んだら、どうしてこれがフィールド・ノートという題になっているのか、といぶかるに違いない。
北川さんはスライドを用いて、フィンランドやスウェーデンの針葉樹林を紹介した。青年が林業に誇りをもって森林伐採の企画に取り組んでいる場面もあった。わが国とは大違いである。ニュージーランドでは北米から移植したレッドウッド(セコイアの一種)が見られたと言う。その巨大な根もとには、メアリー・サザーランドという女性で初めての森林の専門官の名札があった。林学の専門家として、彼女の名を見て北川さんは感激したそうだ。中国や韓国のスライドもあった。最後にアマゾンの熱帯林が写し出され、たいへん感激したという話もあった。この熱帯林を切り開いてユーカリを植林していると言う。そのこと自体も問題だが、日本向けの輸出が計画されているということも大きな問題だ。
北欧では、木を伐採するための6本足の機械が開発されている。この機械は移動するときに、つねに4本の足が機械を支えるため、荷重が地面にかからずに林道を破壊しないという特性があると言う。北川先生は、林業における木材の搬出するための技術がご専門であり、たしか学会でそれに関する賞を受賞しているはずである。
北川さんは、カナダの埋没林の調査にも参加した。今は極地の荒野であるが、かつて4500万年前には、メタセコイアやヌマスギが繁茂していたと言う。したがって、当時は現在のフロリダ半島の気候だったと推定される。スライドが印象的だった。その埋没林の株が埋まっている地層が広大な平原にどこまでも水平に横たわっている景色は、一見は百聞にしかずである。この調査に応募するために、測量調査の技術を取得していると偽ったと言う。6月から8月までの間しか植物の生育期間がないという厳寒の地で、それなりの苦労があったと言う。意外にも蚊がものすごく多く、片手で蚊を追い払いながら用をたさなくてはならない、ということであった。
北川さんの林業に対する強い思いは十分に伝わり、林学や林業に関するたいへんよい勉強になった。しかし、若干の不満もなかったわけではない。私は、森林の在りようを研究している立場なので、その方面の情報はほとんど得られなかった。しかしながら、500円の参加費で、ちょつとした夕食が付き、カナダの埋没林やアマゾンの熱帯林をこの目で見るという素晴らしい体験ができた。
前回
メニューへ
次回
新フィールドノート
kyoshoku-c@coop.nagoya-u.ac.jp