新フィールドノート
−その49−
モンゴリナラは残った
名古屋大学情報文化学部 広木詔三
いよいよハードディスクに寿命がきたようだ。何とか再起動したが、e-メイルが動かなくなってしまった。生協に行って、新しいのを注文したが、マックは機種が新しくなるところで、いままでのは販売されないという。だが、新しい機種も当分は入荷しないだろうと店員は言う。そこで最後の神だのみで、箕浦さんにお出ましを願った。長い時間を費やして、ほぼ元通りに動くようになった。しかし、一部に異変が起きている。いままで白黒のところがカラーになっていたりすると、何となく妙なものである。機械も、長く接していると体の一部のようで、愛着も涌く。あちこち痛んでいるようで、憐憫の情まで感じてしまう。もしかすると、この原稿は、このコンピューターで書く最後になるかもしれない。
ところで、どんぐりの落ちるシーズンとなり、キャンパス内のどんぐり拾いで毎日忙しい。今年は、どんぐりの他にクリも拾うことになった。それはクリの生産量を知るためである。三内丸山の遺跡では、クリを主食にしていた可能性があるという。一説には一時五百人もの人口がいたという。いったいクリの実で、どれくらいの人間を養えるのか、ということが問題になっている。いったい一本の木からどれくらいのクリが生産されるのかを知る必要がある。小原村で、あちこちの野生のクリの木を探して、9月始めから毎日毎日クリを拾いに行く。私は、最初にフィールドを案内して、クリの拾いかたをアドバイスしただけで、あとは人間情報学研究科院生の北川さんを中心とした学生さんが拾っている。クリを母樹ごとに拾い、拾ったクリは大きさを計測して、さらに乾燥させて重量も測定する。毎日、何百ものクリを処理するのはなかなか大変である。
ところで、私は、今日(9月19日)、別の仕事で小原村に出かけた。モンゴリナラのどんぐりを拾うためである。それはモンゴリナラに寄生する昆虫を調べるためである。農学部のドクターの福本君に研究を依頼している。わが国のモンゴリナラは東海地方にしか分布していない。それも、砂礫層地帯や花崗岩地帯の痩せ地に分布する。私は、モンゴリナラは氷期の遺存種ではないかと推測している。雨量の多い温暖で湿潤な年には、モンゴリナラの樹勢が弱まり、なかには枯れることもある。競争相手の少ない乾燥しやすい痩せ地に分布するため、モンゴリナラはストレスも強く受けているように思われ、どんぐりは虫害を受けているものが多く見られる。このモンゴリナラと昆虫との関係が明らかになればと期待している。
曇りがちな日々が続くなか、今日は幸いにして日が射し、残暑が厳しい。幸いにして、仕事は順調で、モンゴリナラのどんぐりは五百個以上集めることが出来た。一本の母樹ごとに五十個集めなければならないので、苦労した。林の中で、でかいキイロスズメバチに出会った。私のすぐ目の前でうろうろしている。観念してじっとしていたら、去っていった。巣の近くではなかったようだ。数日前、私が一人で林に入ったときは、二匹も現れたので、肝をつぶしてほうほうの体で逃げ帰ったことを思い出す。
さて、私のフィールドで、コンビニで仕入れたにぎりめしを食べた。そこは、はげ山で見晴らしが良い。そこの尾根にまいたアベマキの実生が18年目で全部消えた。モンゴリナラの多くは生き残った。ようやくモンゴリナラの方が痩せ地に耐えることが実証できた。
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