新フィールドノート
−その44−



アラカシとツブラジイ
名古屋大学情報文化学部 広木詔三


 昨年の11月末に三宅島に出かけた。かけはしに書くつもりで、いろいろと考えていたのに、そのすぐあとに新潟に出かけたり、仙台に出かけたりで、三宅島のことを書かないでしまった。ところで、明日から、また三宅島に出かける。しかし、今月末には、生態学会で松本に行くし、4月には京都で国際会議がある。それで、今度の三宅島も話はボツになってしまうかも知れない。まあ、どうでもいいことは、これくらいにしよう。  万博問題に首を突っ込んで、現在行われている環境アセスをチェックする市民団体に加入している。2月 24日に「準備書」が公表され、現在、縦覧中である。4月6日までに意見書が出せることになっている。万博の他に、愛知県が万博予定地に計画している住宅地と道路に関する準備書がセットになっていて、全体で千ページにもおよぶ。この多忙な折りなかなか目を通すのはままならない。いろんな分野の人と話し合うと、ほんとうにさまざまな問題点が浮かび上がる。この点は重大な問題だが、いつか機会を見て書こう。  今回は、鳥に関する話だ。万博に首を突っ込んでいいこともある。長年の謎が解け初めているのだ。それは、なぜ東山丘陵にはツブラジイが分布しないのか、という問題である。私は、20年以上も前に、毎日新聞にこの問題を書いたことがある。なぜ、東山丘陵にツブラジイは存在しないのか。アラカシは分布している。ツブラジイはもともと分布していなかったのか、それとも人間の伐採によって消失してしまったのか。実際には証明することは困難なのだが、一応の説明はつきそうだ。それは、こういうことである。  万博会場予定地は花崗岩地帯と砂礫層地帯がぶつかりあっているところである。花崗岩は風化が速く進むので、土壌の形成も速く、したがって発達した森林が形成される。つまり、ツブラジイ林となりやすい。しかし、砂礫層では、チャートの礫が多く、土壌化が進行しにくい。森林が形成されても、伐採が繰り返されると、土壌は洗い流されて土地が痩せてしまう。そうすると、ツブラジイは育ちにくい。ツブラジイが砂礫層上でまったく育たないというわけでもない。現に、海上の森の砂礫層上にツブラジイは生育しているのであるから。しかしながら、砂礫層上でツブラジイが分布しているのは、花崗岩地帯に近く、ツブラジイの種子が散布されやすいところに限るのである。  砂礫層地帯の痩せ地にはアラカシが多い。アラカシはツブラジイよりも痩せ地に強い可能性は十分に予想される。しかし、そればかりが砂礫層地帯にアラカシの方が多い理由ではない。アラカシの母樹が近くになくとも、アラカシの実生は砂礫層地帯に多いのである。このことも、不思議で、もう一つの謎であった。実は、アラカシのどんぐりはカケスが運ぶのである。話によると、なんと一キロ以上も運ぶことがあるというのだ。それに対して、ツブラジイはヤマガラが食べる。ヤマガラは縄張りを形成するので、それほど遠くまで運ばないということだ。つまり、ツブラジイ林はアラカシ林よりも発達が遅いのだ。  はじめに、少々、どうでもよいことを書いてしまったため、最後のところをだいぶ駆け足になった。かなりけずったのだが。ところで、また、最終バスに間に合わない。
  前回     メニューへ    次回
  
新フィールドノート
kyoshoku-c@coop.nagoya-u.ac.jp