新フィールドノート
−その22−



「海上の森」と万博の開発構想
名古屋大学情報文化学部 広木詔三


 2005年に開催が予定されている万国博覧会の開催国がいよいよ今年の6月にBIE(博覧会国際事務局)で決まるという。オ−ストラリアのゴ−ルドコ−ストが申請を取りやめたので、カナダのカルガリ−と日本に絞られた。開催国は、47の万国博覧会加盟国の投票によって決定される。愛知県やわが国の関連省庁は、加盟国の大使館を訪ねて日本に投票するように運動しているという。不思議なのは、実際の開催地にあたる瀬戸市が前面に出てこないことである。瀬戸市では商工会議所を中心として、この万博を機会に経済的な再興を計りたいと考えているのだが、実際には愛知県主導である。愛知県の鈴木知事が万博を機会になかなかはかどらない開発の引き金にしようとしている。瀬戸市民は万博による経済復興などという幻想には惑わされず、醒めた目で見ている。おっと、これは私らしくもなく、政治・経済のことを口走ってしまった。
 2月も半ばを過ぎるといよいよスギの花粉が飛翔し始める時期となる。昨年は花粉がほとんど飛ばなくてたいへん楽であったが、予想では今年のスギ花粉量は多いという。私は、26・27日と、海上(かいしょ)の森の視察を行うことになっている。日本自然保護協会が万博小委員会を設け、万博構想の検討のための現地視察を行うのである。
万博構想は、1995年末閣議了解の直前に、大きな計画の変更がなされた。それまで、愛知県はシデコブシ等の貴重な植物を移植で済ませるの一点張りであった。その後、シデコブシの大群落が地元住民に発見され、朝日新聞に報道された。ちょうどその頃カルガリ−の立候補があり、通産省や環境庁はこのままでは太刀打ちできないと見て、愛知県に計画区域の変更を迫った。しかしながら、万博の開催場所を始めから海上の森に設定したため、計画の一部手直し程度では、海上の森の自然環境は保全しえない。現に、愛知県が資料を出し渋った公園開発計画書を見てみると、里山の自然を残す配慮にまったく欠けており、人工的な都市公園を造る内容となっている。自然保護協会も構想に重大な問題があると指摘している。地元住民の大きな反対があってはカルガリ−に勝てない、という判断から、通産省の圧力で反対住民を交えた市民シンポが何度か開かれた。元名古屋大学法学部の森島教授が世話役であった。しかし、このシンポは、愛知県の住民軽視の態度がたたって、地元住民からはソッポを向かれている。BIE総会に向けて、反対住民の意見を聞いているという単なるポ−ズを取るためであることがはっきりしてきたからだ。今回は、万博の開催国をめぐっての経過を中心に話を進めたが、次回には、海上の森の自然について、詳しく紹介したい。


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