新フィールドノート
−その13−



桜 島
名古屋大学情報文化学部 広木詔三


  前回は、北海道の話をしました。今回は、九州です。私の大学院時代の研究テーマは、火山が噴火した跡の森林の回復に関するものでした。ですから、九州の桜島は私にとって必見なのです。
 本文中の写真は、昭和、大正、安永(江戸時代)の順に流れた溶岩です。安永の溶岩上には、すでに森林が成立していて、外からは溶岩の姿は見えません。
 わが国は温暖・湿潤なので、およそ200年も立てば、溶岩上でも森林ができるのです。ただ、スダジイやタブノキの極相に達するには、やはり数100年から1,000年かかるようです。
 昭和の年代に流れた写真は、おそらく私が大学院の博士課程に進学した頃のものですから、昭和46年(1971年)に撮影したもので、今から25年前のものということになります。当時は、溶岩上には、植物がほとんど進入していませんでしたが、現在はどうなっているでしょうか。機会があれば、行って確かめてみたいものです。
 当時、私は、東京駅から西鹿児島まで、急行で25時間かけて行きました。現在のような超多忙な時代には考えにくいことです。それよりも少し前の学生時代、ということは1960年代の後半、私は、ときどき東京の友達に会いに行きました。仙台から普通列車で9時間かかりました。学割が五割の時代で、仙台・東京間の往復が1,000円でおつりがきました。そういえば、私のところの修士を今年卒業した竹内君は、昨年の盛岡での学会に、確か青春何とかキップとやらを使って、ずっと普通列車で来ました。よく学会に間に合ったと感心したのを憶えています。
 確か、私が名古屋大学に勤めるときだったと思います。生まれて初めて新幹線に乗ろうとした時のことです。新幹線が東京始発ということを知らず、上野の駅でうろうろしてしまいました。予定の列車の発車まで、あと10分となり、たいへん焦りましたが、山手線を乗り継ぎ、何とか無事、始めての新幹線に間に合って乗ることができました。
 思い返してみると、仙台から片道30時間以上もかけて桜島まで出かけているのです。フィールド・ワークは時間との闘いです。


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