新フィールドノート
−その11−



日本にサバンナを求めて
名古屋大学情報文化学部 広木詔三


 私は、1970年代の始め頃に、花粉症になりました。日本におけるスギの花粉症は、東京医科歯科大学の斎藤洋三氏によって、1963年に発見されています。ですから、私の花粉症もかなり早い時期のものと言えると思います。東北大学の大学院に在籍していた頃、春に、仙台郊外の雑木林を散策した後には、水道の蛇口を締め忘れたかのように、鼻水がダラーッと流れ落ちるのです。そのうち、クシャミや鼻づまりがひどくなり、目がかゆくなります。その頃、病院に行っても、医者にも原因がわからず、東北大学の大学病院でもらった薬では、カユミがますますひどくなり、難儀をした記憶があります。
 1974年に名古屋に来てからは、症状がさらにひどくなり、一晩中眠れないこともしばしばでした。症状が進むと、自律神経にも障害が現われるのです。花粉に反応してクシャミをすると、汗が出ます。発汗した後に、冷えると、またクシャミが出ます。一晩中続いた苦しい時期がありました。現在では、花粉のタンパク質を抗原とした抗原抗体反応によるものであることが究明され、それなりの療法も可能になりつつあります。ただ、この花粉症の急増に大気汚染が一役買っていることは、意外と知られていないようです。
 花粉症の話を長々としましたが、それは一生忘れられない思い出があるからです。1979年の2月28日のことです。学生実習のフィールドの検討のために南鈴鹿の青山高原に出かけました。帰り仕度をした頃から吹雪に変わってしまいました。猛烈な寒さと、多分、多量のスギの花粉を吸い込んだのでしょう、その年は、花粉症に最も悩まされた年となりました。スギの花粉は毎年2月の上旬から飛びはじめるようです。名古屋市内に居ても、その頃に、私のクシャミが出始めます。
 写真に、青山高原の山頂部が写っています。この山頂部の景観はサバンナそのものです。アフリカ等の熱帯のサバンナは、もともと降水量の少ない地域で生じるのですが、その他にも、山火事や動物によってサバンナが形成されるということは意外と気づかれていないようです。「星の王子様」に出て来るバオバブの木は、山火事に強いのでサバンナにも出現します。また、草食動物が木の小さい苗を食べてしまったり、ゾウが鼻で木をへし折ったりすることによっても、サバンナは形成されるのです。写真の山頂部に点々と点在する潅木状の樹木はおもにアセビです。カモシカのいやがる成分を含んでいるため、カモシカの食害を免れて点在しているのです。ですから一種のサバンナ状を呈しているわけです。
 私は、一般教育の授業で、森林に関わる話をすることが多いのですが、サバンナばかりでなく、ついでに半ば冗談に、日本にも砂漠があることを紹介することがあります。都市部における森林の消失は、意外と都市気候に大きな変化をもたらしていることが知られつつあります。


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