私の百名山 −その12−



日帰り登山、連続3日で
巻機山、武尊山、谷川岳を登る
工学部 大森和彦


 日本全国に散在する百名山を何ヶ年計画で登るという見通しがあるわけではない。旅行費用と暇とが必要であり、なかなか大変なことである。山岳雑誌にはスポンサーを得て短期間に登るという例があった。ここに紹介する山への登り方は百名山ということで原稿を書いたのではなく、中高年になった我々にとっては比較的取り組みやすい登り方の一つとして紹介したい。 また、尾瀬などを含む上越の山々へのアプローチの一つの方法としても紹介されてもよい。若い頃、3日間、山へ行くと縦走するというパターンで宿泊はテントまたは山小屋であった。筆者は夏の山小屋は白馬山荘くらいしか記憶にないが、とにかく人が混んでいて大変という事を伝え聞く。山小屋利用も季節をはずして利用したことがある。今回の登山は毎日が日帰り登山で下山したらお風呂に入り、ゆっくりと夕食を食べ、しっかり睡眠を取ってまた、翌日別の山に登る。 これを繰り返えす登り方をした。 上越の山々は中部地方の大きな山と違って、このような登り方ができるのかもしれない。
 群馬県と新潟県、福島県の県境に2000m級の山群があり、豪雪地帯で、関東地方あるいは越後方面の気象を変える大きな障壁となっている。 高速道路の発達により、この地域の登山が比較的簡単にできるようになった。 社会人のグループ7人で、8月7日巻機(まきはた)山、8日武尊(ほたか)山、9日谷川岳を 登った。 アプローチのルートは次のようだある。高速道路で中央高速経由で上信越道に入り、豊田飯山IC(名古屋から4時間)で降り、野沢スキー場を通り過ぎて、栄村の道の駅で泊まる。翌朝、中里村から国道363号で1時間程度の山越えをすると上越の湯沢石打に出る。 そこから 分ほどで巻機山登山口の清水に出る。
(1)8月7日、風に波打つ草原の山、巻機山に登る
 この日は7時15分頃登山開始、井戸尾根コースを登る。桜坂駐車場は2・5合目位にあり、すぐ3合目が現れる。7時45分、5合目、樹の間から西方には妙高、燧岳が見える。青いブナ林の中を登って行く。8時45分、6合目、この展望台からは天狗岩とヌクビ沢を正面に見る。天狗尾根を経て割引岳が見える。10時00分、8合目、このあたりから、背の高い木々は無く、美しい草原となる。台風の影響か風が草原を波打たせて通るのがよくわかる。前巻機のピークを降りて行くと、黄色の小さな花が咲き乱れる草原の斜面となる。木道を歩いてこの斜面を降りた所に、9合目避難小屋がある。あたりはニッコウキスゲも咲いている草原の山腹が続き、残雪もある。広大な山スキーのゲレンデである。山岳行者(山伏)スタイルの男が5〜6人下山して行く。最後の男の話によると、新潟県南魚沼郡の寺で翌日火渡りの儀式があり、そのために山に登って身を清めに来たということである。小屋を過ぎて登って行くと平坦な草原があり、池塘がある。10時50分、巻機山(御機屋)山頂に着く。風とガスの中ではあるが、会津駒、八海山方面が見えた。巻機山は通常、割引岳、巻機山、牛ヶ岳の三山をまとめて言う。稜線一帯は草原と池塘が続く。牛ヶ岳にはガスと強風の中、11時40分に到達した。この風と霧は南海上の熱帯性低気圧か九州方面の台風の影響だと思う。12時25分、御機屋にもどり、休憩後下山、9合目避難小屋までの草原の稜線を歩く。はじめはガスが多かったが次第に薄くなり前巻機までのすばらしい稜線の姿が見えるようになった。前巻機を過ぎると、米子沢が眼下に見え、また、石打のスキー場も良く見えた。14時頃6合目、15時半頃下山して、関越トンネルをぬけて、群馬県水上の民宿(1泊6500円)、に着いた。湯沢石打から高速道を走り関越トンネルに向かう途中、こんな山の中に30〜40階のビルが何故あるのと思いたくなるほど、湯沢の町に大きなビルが林立している。こんなリゾートマンシヨンを買う人がいるのだなと思った。
(2)8月8日、孤立してそびえる伝説の山、武尊(ほたか)山に登る
 8日朝は朝ご飯をおにぎりにしてもらって6時半出立。宝台樹(たからぎ)スキー場、オートキャンプ場の横を通り、裏見の滝、武尊(ほたか)神社に着く。7時38分、他の登山者の案内で車を奥まで入れる。後は草の生えた林道を真っ直ぐに歩いて行く。林道終点から夏草をかき分ける細い道になるが、広い河原沿いにほぼ道が真っ直ぐ続く。途中、ガクアジサイ、ツキミソウ、オオウバユリ、キツリフネソウなどが見られた。この緩やかな道歩きは前日の疲れと目が覚めていない者にとっては良いウォーミングアップとなった。8時40分、武尊川沿いを行くが途中で宝台樹尾根に取り付く。稜線へ出てしばらく行くと青い避難小屋が見えた。ブナの太い幹を見ながら登っていく。9時50分、1725m地点で休憩。4つか5つ位の鎖またはザイルの付いた岩場を過ぎて、ゆるやかな登り下りの後、11時05分、武尊岳(2158・3m)の山頂に着く。頂上はガスにまかれて展望がないが、太陽の日射しを感じて暑い。人が一杯で1時期40〜50人になったのではないか。アキアカネが群舞している。よそのパーティの焼き肉のにおいに対して、我々は香り高いコーヒーを沸かして、昼食とした。北方のガスが晴れると尾瀬の笠ヶ岳がよく見え、また燧岳が流れる雲間に見え隠れしている。13時10分、山頂発。13時20分、武尊沢との分岐に出る。 剣ケ峰(1925m)までピストンで登り、30分位休憩して、岩登り訓練の話をする。 14時45分出発、ここからは急勾配の下りで、道の両側の木を利用したりしてどんどん高度を下げて行く。武尊岳の岩場がだんだんせり出して来る。15時00分、ホダカ沢を横切る。16時00分、林道終点。16時30分、裏見(うらみ)の滝を見る。 この滝は水の落ちている内側に観光用の道が付いていて、滝の裏からも見る事ができる。17時09分、広い野天風呂のある宝川温泉に着くが、時間が遅いので入れなかった。ちなみに16時までに入らないとだめで、17時になったら出ないといけないそうである。藤原の集落を過ぎ、宿のある大穴地区へ行く途中、トンネルがある。このトンネルの手前から武尊(ほたか)の山が良く見える。道路脇に車を止めて、われわれの登った登山道、下山道がどこに見えるか、あるいは見えてないか長く議論した。宿に帰ったら、名古屋に向かっているはずのO夫妻が帰っていた。 宝川温泉で別れたが、道は藤原湖の反対側湖岸を通り、結局大穴地区の宿の前に出てしまったので、お風呂を利用したという事であった。
(3)8月9日、人が多いが、遭難も多い谷川岳に登る
 8日夜は同じ宿に泊まる。次の日は7時半に朝食をゆっくりと食べ、8時出発。8時22分、ロープウェイ、リフトと乗り継ぎ、天神山(9時)まで行く。そこから2時間位で谷川岳山頂(トマの耳)に着く(11時)。ガスのため展望がない。登山者が大勢、50名以上いたと思う。記念写真を取るのも順番待ちである。谷川岳のもう一つのピーク(オキの耳)の方へ移動した(11時25分)。オキとは奥の意味である。ときおり、霧が晴れて険しい谷底が見える。帰路は西黒尾根(12時10分)を歩いてロープウェイ乗り場まで降りた。 谷川岳の石はツルツルと良く滑る。私の安物のビブラム底の靴は岩場を雪か氷の上のように滑っていた。西黒尾根の取り付きの岩場を降りる時、手で大きな岩を押さえて左手ホールドにしていたが、右手ホールドがないまま、左手が軍手のまま滑っていった。普通の軍手では岩をつかめない。足のステップを決めるどころではなく、そのまま後転してしまった。幸いザックのクッションによって背中に衝撃を受けることが無かったが、谷川岳の岩場の怖さを実感した。西黒尾根は霧がかかっていなくて、マチガ沢谷底の雪渓や険しい岩峰、白毛門、笠ヶ岳、蓬峠方面がよく見えた。13時沢の頭手前で休憩、14時樹林の中で休憩、15時ロープウェイ乗り場、15時半〜16時半温泉、18時半そば屋で夕食をとる。19時豊田飯山ICから高速道路利用、来た時と同じコースを取って、8月9日夜23時、名古屋に着いた。
1999年8月12日記

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教職員委員会 私の百名山
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