五月晴れ

文学部 田島毓堂



 いま五月晴れ(さつきばれ)というと、この言葉の、文字に引かれて五月のすがすがしい晴れわたった空の様子をいうことになる。本来は違っていた。最近ラジオを聴いていたら、ちょっと年輩の人が、子供の頃には、この地方では、梅雨(つゆ)の間の晴れ間のことを「さつきばれ」といっていたもんだ、という。まさに、この言葉の本来の使い方をしていたということだ。私にこの記憶はない。同時に、この頃は、それをラジオなんかでは「梅雨晴れ(つゆばれ)」と言っていると指摘していた。
 今年は、六月十四日から七月十二日までが、旧暦で言えば、五月。旧暦では季節は太陽暦ほど正確ではないが、この月には必ず夏至を含むことになっており、日本列島の梅雨の期間に大体相当する。五月雨(さみだれ)とは、この梅雨時(つゆどき)の雨のことであり、五月闇(さつきやみ)もこのころの月のないくらい夜空をいう。
 今年の梅雨(ばいう)は、ザァーと降ったと思えば、いい天気になり、一日中シトシトといかにも梅雨らしい日があった後には、真っ青の空と輝く太陽といったように、メリハリのついた梅雨で過ごしやすい。雨で洗われた後の青空は美しい。これが本当の「五月晴れ」なのだろう。暦が変わると共に、言葉の実質が変わってしまった例である。もっとも、まだ変わりきってはいないのかもしれない。

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教職員委員会 暦の今昔物語
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